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zoom RSS アニメの進歩(アマチュアのここ十年と、プロの今後について)

<<   作成日時 : 2006/02/28 00:28   >>

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――これは1年半前に書いた文章ですね。
 アニメのデジタル化というと「デジタル彩色」とか「3Dモデリング」くらいしか記事を見かけなかった気がするので、気になって書いたやつです。
 昔は「やっぱセルじゃなきゃ」とか言われてアニメのデジタル化は嫌われてたんだけど、さすがにこの頃にはなくなってたかな。今ではデジタル彩色じゃない作品は古くさく見えてしょうがないでしょ?



 「最近のアニメは進歩していない」という記事をみかけたのだけれど、ここ十年ちょっとの間に相当に進歩している部分もあります。――ただしそれは「アマチュアの製作環境」なので一般的な商業アニメ(プロの作品)とは傾向が違うかもしれません。
 しかし、アマチュアの状況が変わっているということはプロの環境もそれなりに変わっていると考えられるので、アマチュアの変化からプロの変化を考察してみたいと思います。

●アニメの特殊性
 オタク文化のなかでも「漫画」「ゲーム」と「アニメ」では、大きく違っている部分があります。それはプロとアマチュアとの製作環境の違いです。
 「漫画」「ゲーム」ではプロとアマチュアにほとんど差はありませんが、「アニメ」だけは大きな隔たりがあるのです。これは「同人漫画」「同人ゲーム」は沢山見かけるのに、「同人アニメ」はほとんど見かけないこともひとつの証左になるでしょう。
 もっとも「アニメは製作するのに沢山の人が必要である」ためにアマチュアが製作しにくいと思われるかもしれません。しかし、プロの作品で沢山のスタッフを使っているのは製作期間を短くするためであり、やろうと思えばプロであってももっと少ない人数で製作することは可能です。
 それではプロとアマチュアで大きく違う点は何かというと――アニメ誌などではあまり取り上げられることはありませんが、「撮影」の部分です。

●アニメの撮影技法
 アニメは一枚一枚の絵を撮影して、それを連続して映写することにより動きを出す、という話はどこかで聞いたことがあるでしょう。この撮影にはコマ撮りのできるカメラが必要になりますが、この「コマ撮りできるカメラ」というのが比較的特殊で入手しづらいものなのです。
 一九九〇年代には既に八ミリフィルムは絶滅状態でしたし、八ミリフィルムカメラでもコマ撮りができるカメラは限られています(いま入手することはほぼ不可能でしょう)。
 あるいは一九九〇年代はビデオカメラが普及し始めていたため、ビデオカメラでコマ撮りをすることも考えられましたが、家庭用ビデオカメラによるコマ撮りは四〜六フレーム単位(フィルムでいえば三〜五コマ単位)の撮影になるため、スムーズにアニメーションさせるには実用的ではありませんでした。
 まずはこの「特殊なカメラを入手する」段階を超えなくてはいけません。
 カメラが入手できたなら撮影することが出来ますが、その撮影でプロとアマチュアの差が大きく出ます。
 もっとも、基本となる「止め絵」と「動画」の撮影については、必要な絵を必要なコマ数だけ撮影するという点でプロとアマチュアで変わるところはありません。
 大きく違うのは「引き」「多重露光」「マルチプレーン」の撮影でしょう。
 「引き」の撮影では一定の間隔で絵をずらしながら撮影します。プロの場合は専用の機材をつかって決まった間隔で絵をずらしているのですが、アマチュアの場合は定規などで間隔を測りながらの撮影になることが多いです。このためずらす間隔が違ったりあるいは絵の位置がずれたりして、スムーズに動かない「ガタる」ことが多くなります。
 「多重露光」というのは、フィルムを重ね撮りすることです。「フェード」「オーバーラップ」「透過光」といった効果には多重露光により実現しています。
 露光量の調整が必要だったり、あるいは撮影コマ数を正確に把握しなければいけないなど(一コマでも間違うと全て撮影しなおしになるため)、撮影コストが高いためアマチュアの作品ではあまり使われません。場合によっては普通の撮影で似たような効果が得られる方法を選択することもあります(透過光のかわりに蛍光色を使ったり、フェードやオーバーラップを作画で処理するなど)。
 「マルチプレーン」とは通常は密着しているセルとセルに間隔を開けることです。これにより、例えば手前のセルをボケさせることが可能です。この撮影には特殊な撮影台が必要なので、アマチュアで使われることはまずありません。
 以上のように、アニメの撮影ではプロとアマチュアで大きな隔たりがあるのです。

●視聴者から見たプロとアマチュアの違い
 ところでプロの作る作品は「引き」「オーバーラップ」が積極的に使われます。もちろん演出として必要であることもありますが、作画枚数の節約のために使われているケースが多いように思われます。作画枚数を減らすために「止め絵」にするですが、単なる止め絵では間がもたないため引きやオーバーラップ処理を使っています。
 逆にアマチュアでは前述したように「引き」「オーバーラップ」は撮影の都合上あまり使われなかったり、あるいは綺麗に撮影されないことが多いのです。
 このため「引き」「オーバーラップ」が多用され綺麗に見える作品は「プロっぽく」見えます。逆に作画その他が良くても「動くだけ」の作品は「アマチュアっぽく」見えるのです。

●二十一世紀のアマチュア作品
 この状況が変わり始めたのは、コンピュータの性能が上がりアマチュアでもノンリニア編集ができるようになった二〇〇〇年以降のことだと思います。
 それが明確になったのが「ほしのこえ」であり、あるいはネット上に数多ある「フラッシュ作品」の登場でしょう。
 例えば「ほしのこえ」を製作した新海誠さんは『そもそもキャラクタなどあまり描いた経験もありませんので(スミマセン)、極力動かさなくて済む演出にしていますが…。』と述べていますが、十年前のアマチュアには「動かなくて済む演出」をすることそのものが現実的ではなかったのです。そのため昔のアマチュア作品は「とにかく動かす」ことを旨とするものが多く、例えば「DAICONフィルム」はまさにそういった作品の代表と言えるでしょう。
 このように、アマチュア・アニメの製作環境はこの十年で大きく変わりました。
 今までプロの特権とも言えた「引き」「フェード」「オーバーラップ」「透過光(エフェクト)」は、もはや誰にでも扱えるようになりました。特に「引き」「フェード」「オーバーラップ」は「フラッシュ作品」の得意とするところであり、ネットで頻繁にみかけるようになりました。
 また同時に、アマチュア作品に対する評価も、以前のような「動く」作品よりも「プロっぽい」作品にシフトしているようです。ひょっとするとアマチュアからプロになる人々が増えるのかもしれません。

●デジタル化とプロの作品
 翻ってプロの作品を見渡すと、こちらでもコンピュータ(デジタル化)による恩恵がいくつか見られます。
 特に顕著な部分は色彩設計でしょう。昔は決まったセル色のみだったものが、現在ではその制約が無くなったために、画面内の色の幅が広がっています。
 撮影に関しても、テレビアニメではあまり見かけなかったマルチプレーンによるフォーカスのずれを使った画面が増えてきたように感じます。
 これらについて、まだ演出家が慣れていないせいか積極的に使われていないように感じますが、これからは色やフォーカスを使った演出が増えてくるのではないでしょうか。
 また、昔ならば避けていた自然の動き――例えば川のせせらぎ、舞う雪や花びら、燃え盛る炎なども以前より使われるようになってきたように感じます。これらはCGの進歩に伴い作画の手間が軽減されたことによるものでしょう。まだ違和感がある場合もありますが、今後はもっと使われていくと思われます。

 以上のように、セルによる制約がなくなった部分についてはプロの作品についても大きく進歩するのではないでしょうか。
 少なくともデジタル彩色による拡がりのある色彩を見慣れたあとでは、セル時代のテレビアニメはとても古くさく見えてしまう――くらいには進歩しているような気がします。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
今、アニメについて調査しているのですが、すごくためになる文章でした。

どうもありがとうございました。
がやがや
2006/05/11 13:39

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